『ストーリーとしての競争戦略』の感想メモ

書評ストーリーとしての経営戦略,ハイキュー!!,戦略読書日記,楠木建,経済・経営

優れた戦略ストーリーを読解していると、必ずといってよいほど、その根底には、自分以外の誰かを喜ばせたい、人々の問題を解決したい、人々の役に立ちたいという切実なものが流れていることに気づかされます。世の中は捨てたものじゃないな、とつくづく思うのです。

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建

物語思考の原点『ストーリーとしての競争戦略』の感想メモです。

本書の概要

『ストーリーとしての競争戦略』は一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建によって書かれた2010年に発表された本である。

優れた競争戦略は「ストーリー」という思考様式を持っている、という視点でいくつかの企業を取り上げ、分析をしている。

実際には、ストーリーとしての競争戦略によって企業のすごさを語る内容というよりは、ストーリーテリングによって戦略を考えてみることの素晴らしさを感じさせてくれる内容である。

本の魅力

事例がたくさん紹介される本と思ったら…

この本は、ストーリーとは何か、戦略とは何か、逆に何が戦略ではないのか、そういった言葉の意味の説明に大部分が割かれている。

教科書的に「戦略」を定義すると、「組織がその目的を達成する方法を示すような、資源展開と環境との相互作用の基本的なパターン」のように小難しい説明になるかもしれない。
しかし、この本では、そういった言葉を筆者の言葉で分かりやすく、十分な情報を用いて誤解のないように説明されている。
(ちなみに、筆者による戦略とは、「違いをつくって、つなげる」が本質である、と言っている。)

本のタイトルだけを見ると、いろんな企業の様々な事例から戦略のすごさやストーリーの素晴らしさを説明してくれる本だと思うかもしれない。
実際、後半になっていろんな企業の事例が紹介されるのだが、序盤は言葉の定義の詳細な説明が大部分である。
この定義の説明のおかげで、中盤以降に紹介される企業の戦略の意味が理解でき、企業のすごみが強調され、本書の面白さをより感じれる内容であった。

大学生のときに読んだとき、言葉の説明パートが長く全然本題に入らないので、途中で飽きちゃいました笑

ストーリーの大事な要素は「長さ」っていうのがこの本の主題の1つなんだけどね

社会人になって読み切ったけど、その意味を痛感したよ、、

優れたストーリーの3要素

優れたストーリーとは因果論理でつながっているということを意味する。戦略ストーリーの評価基準はストーリーの一貫性にあり、一貫性の次元として以下の3つがあると著者は主張している。

  • ストーリーの強さ
    • ストーリーが「強さ」とは、ストーリーの中の構成要素のXがYをもたらす可能性の高さ、つまり因果関係の蓋然性が高いことを意味する。
      「量産すればコストが下がる」という因果関係は規模の経済に基づいており、蓋然性が高い。
  • ストーリーの太さ
    • ストーリーの「太さ」とは、構成要素のつながりの数の多さを指す。XからY, Y’, Y"と複数の構成要素につながるものはストーリーの太さがある。
      あるメーカー(本書ではマブチモーターが例)が「標準化」を実施すれば、「平準化生産」「一極集中の営業体制での直販」「部品の内製化」「コスト優位」という効果が得られるなど、これはストーリーに「太さ」がある。
  • ストーリーの長さ
    • ストーリーの「長さ」とは、時間軸でのストーリーの拡張性や発展性が高いことを意味する。長さのあるストーリーはXからY、そしてYからZと連鎖的にストーリーが進み、好循環を生み出す。
      「標準化」→「大量生産」→「コスト優位」→「顧客が標準化された製品に切り替え」→「さらなる量産」→「さらなるコスト優位」→ … のように好循環を生むものは「長さ」のあるストーリーである。

本書では、このストーリーの3要素は経営においてマブチモーターのモーター標準化やスタバの第3の場所などの事例で紹介していたが、事業アイディアにおいて、面白い話と面白くない話の違いを言語化している説明だと思った。

「好循環」って言葉がサステイナブルにつながってきそうね

僕が会社で事業アイディアをお偉いさんに発表することがあって、このストーリーの3要素を参考にしました
サステイナビリティも強調できていい感じに発表できたんじゃないかな

経営戦略や事業アイディアをこの3要素に当てはめて考えると、良し悪しの判断材料にできそうだし、ストーリーに沿うようにアイディアを考えれば、自分の論理を強化できそうね

この3要素は経営だけに適応できるものでもなく、面白いと感じるストーリーには、経営の文脈関係なくこの3要素で説明できるものもあると思う。

例えば、古舘春一の漫画『ハイキュー!!』で、「変人速攻」が編み出されたとき、ストーリーへのワクワク感を感じた。これもこの3要素がある。

  • 変人速攻という速さを武器としており、ブロックを振り切ることから得点へとつながるであろうという蓋然性があり、ストーリーの「強さ」がある。
  • 変人速攻によって直接得点につながるだけでなく、ブロッカーが変人速攻を警戒し囮としての効果も持つなど、チームとしての得点の方法の選択肢を増やしたという点で、ストーリーの「太さ」がある。
  • 変人速攻以外の攻撃が決まりだすと、変人速攻もより決まりやすくなるという好循環が生まれ、チームとしての得点がより決まりやすくなるという、ストーリーの「長さ」がある。

このように何となく面白いと思っていたストーリーがこの3要素で説明できるものもあり、楠木建さんの洞察のすごさを感じる。

漫画やアニメのストーリー展開の話とは少し違うけど、『ハイキュー!!』の面白さは、変人速攻が編み出されたときのワクワク感だけでなく、変人速攻が通用しなくなって、それをどう乗り越えていくか、というのもあります

ワクワクした事柄をこの3要素に当てはめると、3要素を持っているものってけっこうある気がするわね

一見して非合理

上記のように一貫性があり、筋の通るストーリーになる事業を行えたとしても、それを単に適用するだけでは模倣されてしまう。そこで、模倣をされないためにはクリティカル・コアが必要となる。

クリティカル・コアの定義とは、

「戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建

であり、前半部分の「一貫性」とは、さまざまな構成要素と深い関わりを持ち、1つで何個もの効果をもたらす打ち手である。つまり、優れたストーリーである。

そして、「持続可能な競争原理」となるための条件として必要なものが、「一見して非合理に見える」ということである。

ストーリーから切り離してそれだけを見ると、競合他社には「非合理」で「やるべきではないこと」のように見える。しかし、ストーリー全体の中に位置づければ、強力な合理性の源泉になる。

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建

本書では、技術等により優位性を持っていたとしてもいずれ模倣され、その地位を脅かされることを主張している。(意訳)

筋の良い優れたストーリーを思い付いて事業に起こしたとしても、模倣され熾烈な競争を迫られる。
しかし、「一見して非合理」なクリティカル・コアを構成要素とすれば、競合他社は模倣する決断を取りづらくなり、仮に模倣されたとしてもストーリーの文脈を十分に理解していないと、その模倣は無意味になってしまうのである。

例えば、スターバックスコーヒーは「第三の場所」というコンセプトがある。これを実現するために、直営店方式を採用、つまり、フランチャイズ方式を採用せずにカフェ事業を行っている。

フランチャイズ方式にした方が失敗するリスクを抑えて利益率も高くできることから、多くの企業ではフランチャイズ方式を採用しており、直営店方式は非合理に見え、模倣する企業は少なくなる。しかし、スターバックスはこの直営店方式により、店舗の雰囲気、出店と立地、スタッフ、メニューにこだわり、「第三の場所」を実現し、競争優位性を高めているのである。

「一見して非合理に見える」ってことがストーリーテリングの本当の意味って実感できるわね

本書の序章で、「経営計画なんて面白くないけど、そこにストーリーがあれば、ストーリーに興奮し、面白がってくれる。」といったことが書かれていて、ストーリーの意味ってそんなものか~って思ってたけど、
ちゃんと競争優位性を高める意味もあって、本書でここが一番の主題だと感じました

「一見して非合理」な要素に手を出す勇気
この本で取り上げられる経営者は尊敬に値するわね

その他、印象に残ったシーンや言葉

簡単に得られるものに手を出してはいけない

要するに、一撃で勝負がつくような「飛び道具」や「必殺技」がどこかにあるはずだ、それをなんとか手に入れよう、という発想がそもそも間違っているのです。戦略ストーリーが意図する強みは、個別の打ち手の中にはありません。打ち手をつなげていく因果論理の一貫性こそが競争優位の源泉なのです。

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建

個別の打ち手は簡単に模倣されてしまうし、すぐに役に立たなくなる。

「変化の激しい時代だから~」について

以下の文章は『日本経済新聞』の記事からの引用です。ちょっと読んでみてください。  

いよいよ日本経済は先の見えない時代に突入したという感がある。今こそ激動期だという認識が大切だ。これまでのやり方はもはや通用しない。過去の成功体験をいったん白紙に戻すという思い切った姿勢が経営者に求められる。  

そのとおり、とうなずく人も多いと思います。ただ、この記事は昭和も昭和、私が生まれた一九六四(昭和三九)年九月の『日本経済新聞』からの引用なのです。昔の新聞をめくってみれば明らかなのですが、この数十年間、新聞紙上で「激動期」でなかったときはついぞありません。

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建

「変化の激しい時代だから~」「VUCAの時代だから~」っていう人の違和感が解消された👍

昔から変化に対して柔軟じゃない人は不利なんじゃないかってずっと思ってた
ズバッと言ってくれる

表面的なスキルより中身が大事

私の経験した範囲でいっても、「話がとにかく面白い」ということが優れたリーダーに共通の特徴であるように思います。この連載で事例として取り上げてきた会社の経営者にしても、実にお話が面白い方々ばかりでした。話が面白いというのは、「話がうまい」とか「プレゼンテーションに長けている」とか、そういう表面的なスキルをいっているのではありません。一般的な意味では、必ずしも「話し上手」でない方もいるのですが、訥々とした語り口の中にも骨太の論理があり、思わず身を乗り出して聞いてしまうような面白さがあります。何よりも話している本人が面白がって話をしているのです。ストーリーという戦略の本質を考えると、「話の面白さ」はリーダーシップの最重要な条件の一つです。

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建

文章術や話し方などの技術よりもまずは中身を育てよう。

まとめ

この本の面白さは、ストーリーテリングの観点から企業の戦略を読解すると企業のすごさをより理解できることだけでなく、それ以上に、この本自体が一貫したストーリーになっていて、つながりとして読むとストーリーの素晴らしさが理解できることである。

偉人の名言を文脈も読まずに理解した気になることがあるが、あらゆる面で文脈を大切にしようと思える本でした。

たぶん経営戦略の本として読んでも成功できない

ちなみに、この本を読んだところで、素晴らしい経営戦略を思い付いて、実際にビジネスに成功することはできないと思う。
何よりこの本はストーリーテリングの重要性を説いてくれるだけで、「どうすればいいのか」についての回答はない。

これについて『戦略読書日記』(楠木建)の中で、「戦略構想のスキル」などないと言っている。
それは戦略ストーリーを考えることはセンスが必要だからである。

戦略分析は担当者(たとえば「経営企画部門」の「戦略スタッフ」) の仕事である。しかし、戦略をつくるということは、商売全体を組み立てるということであり、担当者の手に負えない。あくまでも経営者の仕事だ。戦略をストーリーとして考えるという僕の視点からすれば、戦略は分析の産物ではない。戦略の構想は何よりも「綜合」(シンセシス) の思考を必要とする。戦略をつくるという仕事にはそもそも「分析」(アナリシス) の思考とは相容れない面がある。
分析と綜合の違いは、「スキル」と「センス」の違いといってもよい。分析がスキルを必要とするのに対して、綜合はセンスにかかっている。

『戦略読書日記』楠木建

つまり、ストーリーを組み立てるためにはセンスが必要なのである。
センスは教科書的に身につくものではないが、場数を踏み、仕事の中でセンスを磨いていくことで育つ。

センスのある優れた経営者は引き出しが多い。文脈に対応した適切なロジックを引き出せ、その判断が的確なのである。

あくまで、この本は競争戦略をストーリーで考えようとするきっかけに過ぎない。


以上、『ストーリーとしての競争戦略』の感想メモでした。
この感想は本書の気に入った部分の切り抜きでしかないので、実際に読み、文脈を意識して本書の面白さに触れてみてください。